『ネオリベラリズム(新自由主義)』

 こんにちは、みなさま。今日は4つ目のキーワードとして「ネオリベラリズム新自由主義)」をお届けします。少しややこしい概念ですが、宮台さんや鈴木さんの文章で当たり前のように登場するので頑張って解説を書いてみました。

ネオリベラリズム新自由主義)】


 新自由主義とは、福祉国家的な「大きな政府」を否定し、個人の自由と自己責任を重視する政治思想であると定義される。注意したいのは、よく新自由主義のスローガンとして「小さな政府」という言葉が掲げられるが、これは単純に政府の規模や権限を縮小するだけのものではないということだ。「小さな政府」は、福祉政策や社会的弱者救済措置を縮小させる一方で、防犯カメラの設置や犯罪者に対する重罰化といった形で国家権力を肥大化させる側面がある。福祉国家が担おうとしてきたある特定の分野、すなわち再分配や貧困削減などのプロジェクトから国家が撤退して市場に任せる代わりに、市場を成り立たせている法秩序や経済ルールを防衛するためにはこれまで以上に強大な役割を国家が果たすべきだと考えるのが新自由主義である。
 1980年代のサッチャー英政権・レーガン米政権以降、先進諸国の多くがこうした方向に政策を転換させた背景として、ただ単に福祉国家の継続が財政的に困難になったということを挙げるだけでは不十分だろう。問題は、後期資本主義における社会の複雑化と不透明化である。社会が複雑かつ不透明になると、何をもって誰が「弱者」とされるのか、そしてどの程度の「手当て」が必要とされるのかという共通了解が失われ、社会的弱者に対する温情的かつ「リベラル」な施策が、実は不当な既得権益と利権の温床なのではないかという不信が広まる。新自由主義はこうした温情的な施策に替えて、誰にも等しく適用される透明なルールを徹底させることで、「リベラル」な施策に対して不信感を抱いてしまった人たちから支持を集めている。
 伝統的に、フェミニズムは「個人の尊厳と自由」を標榜するリベラリズムの理念に女性の解放を重ね合わせつつも、現実に存在するリベラリズムの論理が男性の属する「公的領域」における個人の尊厳と自由を主張しながら、「私的領域」に押し込められた女性や子どもに対する支配することを正当化するレトリックとして通用してきたことを批判してきた。「国家は家庭内の私的な物事に踏み込むべきではない」という論理がドメスティックバイオレンスに対する公的な取り組みを妨げてきたことも、その一例だろう。
 リベラルな社会政策のもとで完全な「個人」として扱われることを妨げられ、男性と同じルールで競争することから阻害されてきた女性の中には、より「個人の自由」を前面に押し出した新自由主義的なものに対して魅力を感じる人も多い。新自由主義的な社会においては、誰でも性別に関係なく一定のルールに基づいた競争に参加でき、個人の努力と資質によっては勝ち上がることができるとされているからだ。
 ところが現実には、ルールが透明かつ一定であることはそのルールが中立的であることを保証しないし、参加する自由が誰にも認められているというだけでは本当に競争の条件が対等であることにはならない。例えば、新自由主義によって子どもや老人のケアといった福祉分野から国家が退却することは、現実的に言って女性にそれらの家庭内役割を肩代わりさせることで埋め合わせされる。すなわち、文化的・規範的な強要が経済的必然性に置き換えられるだけで、家庭内における性役割分担から女性を解放することにはならない。
 新自由主義バックラッシュの関係も同様に複雑だ。新自由主義の進展は社会の流動化を促進し、「伝統的」とされる地域社会や家族のあり方を形骸化するため、「伝統」を自尊心の拠り所とする人たちは不安を感じる。また、新自由主義の一環として起きる経済的なグローバル化は、先進国から途上国への生産拠点の移転や産業形態の転換、移民労働者を増加などの影響をもたらすが、これらも雇用や安全に対する社会的な不安を増加させる。
 とはいえ、こうした様々な不安をもたらしている社会や経済の大きな動き全体を的確に把握して批判するなり対案を提示するのは困難なため、これらの不安が新自由主義に対する批判として表面化することはめったにない。むしろそのような不安は、社会の流動化や伝統の形骸化を「体現している」かのように見える人たち、具体的にはフェミニストの女性や同性愛者などの性的少数者、移民労働者といった人たちに対するバッシングや、かれらの権利拡張に対するバックラッシュという形で噴出することになる。しかもこうしたバッシングは、「フェミニストや同性愛者や移民らは、温情的な社会政策に寄生し既得権益を貪る『弱者権力』である」といった形を取ることが多く、新自由主義による社会の変化に怯える人たちがいつの間にか新自由主義を強化するような論理を主張するという皮肉な構図をつくっている。

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