『デビューボの泉』第六回 : 世界に一つだけのY染色体

 あなたに向けられた憎しみを微笑みへと変えてくれる『デビューボの泉』へようこそ。今回取り上げるのは、以前西尾幹二さんとコンビで登場いただいた八木秀次さんです。八木さんはジェンダーフリーというターゲットを見つけられたのがよほどうれしかったのか、まったく同じ内容の主張を、ところどころ気まぐれに言い回しを変えながら啓蒙活動を展開なさっています。例えば八木先生の得意技の一つに、「ジェンダーフリー男女共同参画ジョン・マネー起源説」というものがあります。

 我が国でも『ブレンダと呼ばれた少年』(無名舎より刊行)と題されて翻訳が出版されたものの、どういう経緯か、早々に絶版され(…)“幻の本”として古本屋で高価で流通していた。
ジェンダーフリーの“嘘”を暴いた本書の意義」『ブレンダと呼ばれた少年』(扶桑社、2005,3)

 問題は、わが国の男女共同参画政策がこのもはや破綻したとしかいいようのないマネーの性心理白紙説に依然として依拠し、「双子の症例」が失敗したことを隠し続けているということである。例えば「双子の症例」の失敗を暴いたコラピントの『ブレンダと呼ばれた少年』はどういう経緯か、絶版にされ、現在、古本として高値で流通している。
『国民の思想』(産経新聞社、2005,3)

 日本でも『ブレンダと呼ばれた少年』(村井智之訳、無名舎、平成十二年)と題されて翻訳が出版されますが、この翻訳はどういう経緯か、すぐに絶版になります。そのため古本がずいぶん高い値段で流通している状態です。(…)どうも出版界に不当な圧力が加わっているようなのです。
『新・国民の油断』(PHP、2005,1)

 『正論』2005年2月号に掲載された「嘘から始まったジェンダーフリー」では、旧石器捏造事件を引き合いにだして、マネーの理論に依拠しているジェンダーフリー教育を批判しています。ところで、ジェンダーフリーはマネーの理論に依拠してないし、『ブレンダと呼ばれた少年』は無名舎が出版事業から撤退したから絶版になったので、むしろ旧石器捏造事件の比喩が当てはまるのは、またまた新しい歴史を作り出してしまった八木先生の方のようにも見えます。しかしこれは、八木先生が「あえて」身を張って反面教師になろうとしているのです。まさに教育者の鑑ですね。それから「古本がずいぶん高い値段で流通」という件ですが、下北沢の古本屋では900円で売ってました。



 これも、「(学生諸君にとっては)ずいぶん高い値段」とか「(僕のお小遣いではちょっと懐が痛むくらい)ずいぶん高い値段」という意味なのでありまして、国民の懐事情を心配する寛容な心のあらわれに違いません。優しいなあ。
 フェミニストたちの陰謀は国家レベルにまで浸透しています。「八木秀次先生講演内容」によれば、「男女共同参画会議の話ですと、ジェンダーフリーを推進しない市町村に対しては特別税を課す、という話もでています」ということもおっしゃっています。そうだったのか! 議事録を見渡してもそういう発言を見つけられなかったのですが、これもきっと政府が隠しているに違いありません。
 また、メディア状況も深刻です。

 昨年末のNHK紅白歌合戦の大トリはSMAPの歌う『世界に一つだけの花』だった。私はテレビでそのシーンを見ていないのだが、この歌が日本中で大合唱された余韻の中で新しい年が明けたことを思い描くだけでもぞっとする。(…)始めからナンバーワンになることを拒否し、それでいてそのことを自分は「特別なオンリーワン」だといって正当化する。そこには人間としての向上は何もない。この歌は親しみやすいメロディーに乗せてみんなで衰退することを呼びかけている。少なくともそのような効果は持っている。(…)いわゆるジェンダー論の背景にあるのも「オンリーワン」論法である。(…)危険な思想はきれいな言葉や音楽に乗せられてやって来ることに注意されたい。
「『オンリーワン』の危うさ」『正論』(2004,3月号)

 「危険な思想はきれいな言葉や音楽に乗せられてやって来る」…まるで昨今の教育基本法改正について書かれているかのよう。含蓄のあるお言葉ですね。SMAPの歌詞の解釈に異論をもつ方もいるかもしれませんが、解釈はともかく「少なくともそのような効果は持っている」のであきらめましょう。ちなみに、八木先生が青春時代を過ごしていたと思われる1973年には、山本リンダが「この世は私のためにある」って歌っていたりしましたが、あれは自分を磨いて玉の輿に乗るという「人間としての向上」があるのでOKなのです。たぶん。ところで八木先生の天皇Y染色体説も「もともと特別なonly one」なオンリーワン論法に見えるのですが、おそらく気のせいですね、きっと。「その染色体継ぐことだけに 一生懸命になればいい」と歌ったりしてはいけませんよね。
 というわけで八木先生には、79デビューボさしあげます。半年前なら92デビューボなんですが、おしかったですね。って、もう終わり? えーと、それには理由が二つあります。まず八木先生は、正論のコラムや論文、講演会などでもほとんど同じ発言を繰り返しているだけなので、持ちネタが少ないのです。さながら一発芸で2年くらいもてはやされて、そのあと地方営業で食べていくピン芸人みたいです。それと、八木先生のデビューボな発言(Y染色体とかマネー起源説とか)は、『バックラッシュ!』の中で既に十分扱っております。というわけで『バックラッシュ!』を読みましょう!


 さて、明日はかの「男女平等バカ」なる本でも「年間10兆円の血税を垂れ流す」と宣伝された男女共同参画予算についての本書『バックラッシュ!』掲載コラムを紹介します。というわけで、バックラッシャーの人は、双風舎に圧力をかけて『バックラッシュ!』を古本屋で高値で流通させよう!(ウソ)