『デビューボの泉』第七回 : 少女マンガがアブナイ! 日本崩壊の危機はこうして伝えろ!

 あなたに向けられた憎しみを微笑みへと変えてくれる『デビューボの泉』へようこそ。今回取り上げるのは、八木秀次さんの先輩格であり、皇學館大学で教授をしている新田均さんです。名前が読みづらいかもしれませんが、「にった・ひとし」と読みます。「にった・きん」と読んではいけません。
 新田さんは最近「つくる会」をおやめになりましたが、その後も「八木秀次さんとともに日本の教育再生を考える夕べ」に名を連ねるなど、教育に対する情熱は変わりません。なお、八木さんとは『日本を貶める人々』という本でご一緒しており、「『自分の性器はどう使おうと自分の自由』という教育に予算九兆円」などという見出しをつけて「過激な性教育」を批判していたりします。『バックラッシュ!』に掲載されているコラム「『男女共同参画予算10兆円』のカラクリ」を見る限り、どうもデタラメのような気もしますが、まあそれはそれです。
 『正論』の2004年7月号に掲載された「レイプや近親相姦は当たり前? 子供たちに過激な性情報を注ぎ込んでいるのは誰か」という文章で、新田さんは読者に向かって、少女マンガこそが日本を崩壊させると説いています。この文章からは、いかに大衆に対してオカルt…じゃなかった、「真実」の教えを説いていくのか、そのテクニックを教えていただこうと思います。

週刊誌が、少女マンガの性描写に驚くなんて、世も末だな――。
「レイプ、近親相姦…小学生まで読んでる、少女マンガの凄い中身」(『週刊朝日』平成十五年十月十七日号)という題を見て、最初は冗談半分にそう思った。ところが、あることがきっかけで、書店にでかけ、実物を手にとってみて、これは容易ならざる事態だ、と愕然となった。今や、少女マンガの世界は、性描写なんでもありの無法地帯と化していたのだ。

 まずはイントロでがっちり読者の気持ちをつかむことが大切です。但し、いきなり日本の危機をうったえても説得力を持ちません。ですからまずは、「わたしもあなたたちと同じように、最初は『どうせたいした問題ではない』と思っていたんですよ。でも、私は真実に目覚めてしまったのです!」と、等身大の読者にむかってうったえるのが重要です。

きっかけは、研究室に来ていた学生たちに、「そう言えば、最近の少女マンガはひどいらしいね」と言ってしまったことだった。すると、「私、本屋でバイトしてるんですけど、先生、ひどいなんてもんじゃありません。それを小学生まで買っていくんです。あんなもの売っていいのか、犯罪じゃないのかって、内心悩むんです」と、一人が口火をきると、後は次から次へと批判が出るわ出るわ(ということは、みんな相当に読んでいるらしい)。
「代表的な雑誌は?」
小学館の『少女コミック』や『チーズ』かな」
「例えばどんな作家や作品?」
青木琴美の『僕は妹に恋をする』、北川みゆきの『罪に濡れたふたり』、刑部真芯のはそれも凄いけど、『欲望と恋のめぐり』『禁断―ヒミツの花園』『囚―愛玩少女』ってとこでしょうか。それから、新條まゆの作品も」

 つづいて、その「真実」に気づいてしまった瞬間を回想します。きっかけはどんな些細なことでも構いません。むしろ、日常的な出来事であればあるほど、その落差に読者は説得力を持ちます。些細な出来事から、日本の危機という「真実」に気づいてしまえるのが偉人のすばらしさたるゆえんでもありますから。なお、細部にわたって会話内容を覚えているなど、やや不自然な感じがあったとしても、回想とはえてしてそういうものですからどんどん誇張しましょう。臨場感もまして、読者を引き込むことができるはず。

タイトルを聞いただけで、頭がくらくらしてきたが、本当にそんなにひどいのか、確かめるために、小学校の通学路にある近くのコンビニへ行ってみた。すると、「十八禁」のコーナーとは別の、小学生でも手にとれる少女マンガのコーナーに『チーズ』(5月号増刊)があった。(…)家に帰るやいなや、わが家の子供たちに「お菓子を買いに行っても、絶対にマンガを立ち読みしてはいけない」と厳命したことは言うまでもない。家内は、その店にいって、マンガにビニールをかけてくれるように頼んだが、聞き入れてはもらえなかった。
中高生がよく行く大きな書店にも足を運んでみた。(…)読んだら人間観や人生観が歪みそうなマンガ雑誌と一緒に置かれていた。

 エッセイちっくに書いたほうが、読者にあたかも自分が体験しているかのように思わせることがでいます。そしていよいよその「真実」を気づかせます。私たちの日常には、かくも危なげなものが転がっていたのです。こうしてあなたも預言者の仲間入り。日本は歪んだ人生観で埋め尽くされており、いずれは崩壊の危機にあるのです。ですから、あなたのその歪んでいない、曇り一つない人生観を国民に知らしめなくてはなりません。但し、身内の人は熱心に支えてくれますが、最初のうちは世間は冷たいものです。めげずに戦いましょう。

「こういう漫画の内容が現実だと思うほど、子どもはばかじゃないでしょう。心配するほど実際に影響はないんじゃないですか」(…)という楽観論には私は汲みできない。先頃発表された日米中韓の「高校生の生活と意識に関する調査」によって、日本の女子高校生の貞操観念の、著しい低さが明らかになったからだ。(…)また、平成十三年の厚生労働省研究班の調査では、十九歳の日本女性の、なんと十三人に一人がクラミジアという性感染症に罹っていることが分かった。(…)これらの結果と、今日の少女マンガの情況が無関係だとは、とても思えない。(…)大人の知らないところで、子供は今や、マンガという名の「ソフトドラッグ」に侵され、その心と体を確実に蝕まれつつある。小中高生に向けて描かれているマンガに対し、警戒の目を向け、隔離・制限・禁止などの対策が“緊急避難”的な意味でも、早急に実地されなければならないことは言を俟たないだろう。

 世界には、あなたが感じ取った「真実」を裏付けてくれそうな現象がたくさんちりばめられています。仮に因果関係が証明できなくても、そういうデータをたくさん取り上げて、「これらの結果と、憂いの対象が無関係だとは、とても思えない」と言えば、なんとなく皆さん共感してくれます。そこで「メディア規制」という自説を強く、激しく、ここぞとばかりに訴えましょう。反対意見に対しては、「関係ないと断言できるのか!」と迫るのも効果的です。それも「真実」のためですから超OK! なお、シャカイガクシャがほざく「限定効果論」とか「第三者効果」とかいうお話は、真実を隠すための陰謀ですから無視しましょう。

マンガ業界と性教育団体とは裏で手を握っているのではないか、お互いに利用し、刺激しあいながら「マッチ・ポンプ」で過激化してきたのではないか、とさえ思う。マンガはまさに“売らんかな”の過激な性描写に走り、性教育団体がそれを口実に学校現場に近づく。(…)業界はさらに過激化し、それに連れて学校もまた…という連鎖があったのではないか。

 憶測も効果的な説得の一つです。断言しているわけではないので、仮に間違っていたとしてもそれほど怒られずにすみますし、些細なことにこだわっていたらその間に日本はヤバイことになってしまうので、警鐘を鳴らすためにもどんどん憶測しましょう。大衆はブタなので、ちょっとやそっとの訴えでは「真実」に気づいてもらえませんから、多少の荒療治は必要です。「大衆の生活感覚を守るのが保守の仕事なのに、自ら不安に貶めてどうする!」という突っ込みがあるかもしれませんが、正々堂々と聞き流しましょう。

正直にいえば、最初は、「少女マンガや性教育なんて、いい年したオジサンが扱うようなテーマじゃないよな」という気持ちが強かった、だが、調べて行くうちに、まさにここから日本は崩壊しつつある、滅びようとしている、何とかしなくては、と真剣に思うようになった。

 等身大の読者にあわせてうったえかけることは何度やってもいいくらいです。なにせ、「いい年したオジサンがテキトーなことを言っているわけではなく、本当に日本は崩壊しようとしているのだ」という共感をしてもらわないといけませんから。本音では「オレ、いい年したオジサンなのに、なんでこんなこと書いてるんだろ。。。もうすぐ50歳だし。。。」と思っていたとしても、原稿料と日本の未来のためにとりあえず忘れましょう、年の事は。

「知って犯した罪よりも、知らずに犯した罪のほうが重い。何故なら、手加減しないからだ」という逆説を聞いたことがある。それが少女マンガや性教育の世界で起きていることなのではないだろうか。事態の深刻さに、はやく多くの国民が気づかなければ、日本はこのまま性に関する規範を喪失し、やがて自滅への道を転げ落ちていくしかない。引き返し不可能な地点が、もうすぐそこまで来ているような気がしてならない。

 最後には「いまならまだ間に合う、オレの話を聞いてくれ!」と、救いの手を差し伸べることが重要です。こうして読者は、あなたの言うとおり日本崩壊の危機という「真実」に気づき、メディア規制に賛成してくれるはず。いやあ見事でした。こうやって人の心をつかむんだというお手本のような文章です。非常に勉強になる文章をお書きいただいた新田さんには、80デビューボさしあげます。おめでとうございまーす。
 さて、明日は本書に掲載されているコラムを一つご紹介します。これを読んでいる読者の中にコラムニストをお探しの編集者の方がいましたら、 macska と chiki にコラムの仕事をください!(ホントウソ)